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「結婚」という制度1。 [読書メモ]

(大野光子『女性たちのアイルランド  カトリックの〈母〉からケルトの〈娘〉へ』平凡社、1998)

  • 「「結婚」とは、神の定めにより男と女を「夫婦」とする制度であり、人は死が別つまで、これを破棄することはできない  このカトリック教会の教えが、長い間アイルランドの婚姻制度を強く規制し、共和国憲法により法的にも守られてきた。しかし、デ・ヴァレラ大統領退陣後の、一九七〇年代の以後のアイルランド社会の大きな変化の中にあって、破綻した結婚の解消、つまり「離婚」を認めるかどうかが、激しい論議の対象となった。/夫婦生活の継続が困難となったとき、経済力のある夫が別居を望み、妻に生活費や養育費を支払っているかぎり、愛はなくとも生計の維持は可能かもしれない。しかし、問題は、実際には夫の出奔によって妻が大勢の子供たちとともに置き去りにされ、十分な生計の術をもたないため生活苦に陥るケースが、後を絶たなかったことであった。/「永遠の結婚」制度は、必ずしも妻たちを保護するものではなかった。家庭の中に閉じ込められ、経済力を奪われ、子供は天の授かりものとする教会の教えのため避妊すらもままならず出産を繰り返す妻たちにとって、あるいは夫の暴力に脅やかされる妻たちにとって、結婚とは、彼女たちを従属的な立場に陥れるものであった。しかも、一方で既婚女性の労働市場への進出が進む現実がありながら、家庭最優先を前提とする社会では既婚男女の賃金格差が大きいため、妻の経済力は低く、夫に棄てられた妻たちは、否応なく社会的弱者となった。/他方、破綻した夫婦関係に決別し、新たなパートナーとの生活に幸せを求めようとする男女にとって、離婚が認められない以上、再出発は容易ではなかった。/こうして、家庭的にも社会的にも妻や子供たちを犠牲者にする破綻した結婚自体を、形だけ無理に維持させるのは不合理であり、望む人たちには離婚と再婚を認めるべきだと考える人々の数は、アイルランド社会においても、徐々にではあったものの、増えていったのである。「妊娠中絶を含む避妊」はさておき、女性の生活権を守るために、まず「離婚の合法化」が実現可能な目標となっていったのは、自然のなりゆきであった。/離婚を認める修正条項を憲法に加えるかどうかを問う第一回目の国民投票は、一九八六年に行なわれた。/しかし、ジェンマ・ハッシィの『アイルランドの今  変貌する国家の解剖』(一九九三)によれば、この国民投票は十分な論議を経ずに実施が決まり、カトリック教会の公然の支援によって保守派が巧妙なキャンペーンを張り、その結果、二対一の割合で反対派が圧倒的に勝利したのであった。/しかし、その直後から、女性たちは新たな国民投票に向けて周到な準備を始めた。(中略)/EUによる女性の人権保護への要請も、彼女たちの活動をさまざまな面で支えていた。前回、反対した人々の多くが農村部の保守層であり、都市の人々と農村の人々の意識の乖離が明らかになっていたが、そのギャップを埋めるために広報・啓蒙活動が展開された。また、農村部の女性たちの職業教育にも力が注がれた。(中略)/第二回国民投票は、一九九五年一一月に行なわれた。直前まで推進派と保守派の厳しい攻防が続き、投票結果は、僅差ながら離婚を認める側の勝利となった。ただし、差は、実に際どいものであった。(中略)」(p.24-p.26)
  • →ここでの記述は、カトリック国であるアイルランドの、離婚をめぐる国民投票についてのものであり、そういった意味では1つの個別的な例にすぎない。とはいえ、いわゆる(男―女の結びつきのみに限られた)「正式な」結婚を是とし、離婚、あるいは結婚の破綻を可能な限り避けようと・避けさせようとする、といった点では、「われわれ」(現代に生きる、いわゆる「日本人」を指すものとしよう)にとっても、この事例の意味するところ、その問題点は見易いに違いない。国家と法の体制が「結婚」なるシステムをいかに利用し、かつ女‐男の性別役割分担を正当化して来たか、ということに関わる問題でもあるからだ。
    女性たちのアイルランド―カトリックの「母」からケルトの「娘」へ (平凡社選書)

    女性たちのアイルランド―カトリックの「母」からケルトの「娘」へ (平凡社選書)

    • 作者: 大野 光子
    • 出版社/メーカー: 平凡社
    • 発売日: 1998/02
    • メディア: 単行本
タグ:大野光子


2009-07-27 18:18  nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
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